教育援助の変遷

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初等教育の普及は、まだまだ多くの問題を抱えているものの、近年改善されつつあります。

1950年代前半には、初等教育を受けるべき年代の子どものおよそ半分が小学校に通えていませんでした。(UNICEF, 2018, p.4)

しかし、学校に通えていない子供の割合は、2000年に15%、2007年に10%、2014年には9%まで減少しています。(UIS, 2016, p.2)

今回の記事では、国際教育分野における最大のドナー機関である世界銀行が、どのように教育援助を行ってきたのか書きたいと思います。

職業技術教育、中等教育に対する教育援助の集中 ~マンパワー理論(Manpower forecasting)~

開発政策における教育の重要性は古くから多くの議論がありました。

例えば、1920年に、ドイツの教育経済学者 Paul Natorp(1962)は、国民教育への投資は、利回りの良い賢明な投資であると述べました。

しかし、開発政策における教育の重要性が劇的に認識され始めたのは、1960年代かもしれません。

その時期の世界銀行は「それまでインフラが存在しなかった国に、どのようにしてインフラを構築するか」という問題に直面していました。インフラを整備するために、外国の技術支援を借りることは出来ますが費用が掛かりすぎます。また、政治的な抵抗も存在していました。

そこで、エンジニア問題を解決するために、人間を工場や機械同様に生産の為に必要な資本と捉える「人的資本論」という考え方が導入されました。(Heyneman, 2003)

中でも、「マンパワー理論(Manpower forecasting)」という理論が台頭しました。Harbison, F.H.とMyers, C.A. (1964)は、熟練労働者(中等教育を修了した労働者)と一人当たりのGNPとの間に強い正の相関関係があることを明らかにしました。

それまでの労働力を単に量的にしかと耐えていなかった考えとは異なり、知識や技能など質的な面を重要視されたのです。

そこで、職業技術教育や中等教育に対する支援が教育協力の中心になっていきました。

世界銀行が初の教育援助を行った1963年、以下の分野へ集中するように述べています。(World Bank, 1963, p.2)

  1. 職業技術教育とその他教育レベルでのトレーニング
  2. 一般中等教育

JICAのレポートによると、1963年から1976年の世界銀行による教育援助の約40%が職業技術教育に充てられまた。(JICA, 2005)

初等教育の重要性 ~経済的収益率分析(Economic Rate of Return)~

1980年代から人的資本論の中でも「経済的収益率分析(Economic Rate of Return)」を用いて初等教育の方が重要だと主張するグループが現れます。

世界銀行教育部門の経済学者であるPsacharopoulos(1994)は、中等教育、職業訓練教育への資金援助による経済的利益率が低いことを指摘しました。また、初等教育へ投資する方が、経済的利益率が大きいと述べました。

JICAのレポートによると、世界銀行は1977年から1988年にかけて中等教育に対する予算を30%削減し、職業技術教育への支出も減らしています。(JICA, 2005)

初等教育の重要性に対する認識は1990年代に更に強まります。

タイのジョムティエンにて1990年に開催された「万人のための教育に関する世界会議」は、万人のための教育(EFA)を提唱し、基礎教育を強調しました。また、セネガルのダカールで「世界教育フォーラム」が2000年に開催され、「ダカール行動枠組」にて2015年までにEFAの完了を計画することが決定されました。

基礎教育に焦点を当てるこの国際的な傾向により、開発機関だけでなく、開発途上国の政府も初等教育の重要な役割を認識するようになりました。

初等教育 VS 職業技術教育

「経済的収益率分析(Economic Rate of Return)」には未だに異論を唱える者もいます。

Bennell (1996)は、職業技術教育への投資の方が有益な影響を生み出すと主張しています。

世界銀行は、職業技術教育への支援を民間セクターに頼っています。(World Bank, 1991)

しかし、Johanson とAdams (2004)は、職業技術教育への支援においても公的機関が担うべき重要な役割があると述べています。

まとめ

当初の教育援助は、マンパワー理論(Manpower forecasting)」に基づいて職業技術教育や中等教育への重要視されていました。

しかし、1980年代から「経済的収益率分析(Economic Rate of Return)」に基づいて、初等教育の重要性が認識され始めるようになりました。

現在、初等教育の重要性が広まっているものの、小学校に通えていない多くの子どもが存在しています。また、学校に形上通えても、十分な質の教育が受けられていないなどの問題もあります。

日本に生まれた私にとっては、小学校に通えたことが「あたりまえ」でしたが、世界には、それが「あたりまえ」ではない子どもたちがたくさんいます。

いつの日か、すべての子どもにとって、それが「あたりまえ」になることを祈ります。

参考文献

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